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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)2号 判決 1978年7月18日

原告 東京特殊金属株式会社

右代表者代表取締役 中里盛雄

右訴訟代理人弁護士 浜野英夫

被告 東京都地方労働委員会

右代表者会長 浅沼武

右訴訟代理人弁護士 古山宏

右指定代理人 田中尚

同 松本征勝

参加人 総評全国一般南葛一般統一労働組合

右代表者執行委員長 松井保彦

右訴訟代理人弁護士 草島万三

同 中村清

同 安養寺龍彦

同 戸谷豊

同 荻原富保

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

(一)  参加人を申立人、原告を被申立人とする東京都労働委員会昭和五二年不第六八号事件につき被告が昭和五二年一二月六日付でなした別紙命令書中主文第一項に関する部分を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二(原告)請求原因

一  参加人は原告を相手方として被告に対し原告が組合事務所貸与を拒否したとして不当労働行為救済を申立てたところ(都労委昭和五二年不第六八号)、被告は昭和五二年一二月六日別紙命令書主文第一、二項の命令を発したが、本件命令中主文第一項にかかる部分は後記二において述べるように違法であるから、その取消を求める。なお、本件命令書は同月一九日原告に対し交付された。

二  本件命令の違法性

(一)  命令書記載内容の認否

命令書理由第1記載の事実は認める。同第2記載の判断は争う。

(二)  手続上の違法

本件において問題とされている組合事務所の貸与についての団体交渉は昭和五〇年五月一五日不調に終りこれを最後として貸借契約不成立のまま現在に至っている。しかして、参加人が本件につき救済を申立てたのは昭和五二年七月六日であるから、右申立は貸与しないことが確定的となった昭和五〇年五月一五日から一年以上を経過してなされている。被告は労組法二七条二項により右申立を受理してはならないのにこれを受理したうえ本件命令を発した。よって、本件命令は同条項に違反するものとして取消を免れない。

(三)  判断の違法

1 被告は本件命令において昭和五一年一月七日原告と参加人組合との間に木工小屋を組合事務所として貸与する契約が成立したと認定している。しかし、両者の間では組合事務所として貸与した場合の使用対象者の範囲、使用開始時刻等の貸与にあたっての重要な付帯事項についての合意が成立していないのであるから、貸借契約は未だ成立していないものというべきである。

2 被告は、本件命令において原告が組合事務所貸与にあたり使用対象者の範囲及び使用開始時刻を制限したのは組合活動に影響を与えようとする意図があったからである旨を認定している。しかし、貸与者にとって貸与物の使用者が誰であるかは重大な関心事であり、この点が明確にされなければ、現実に事故が発生した場合誰に責任を追及すればよいのか、契約終了の際誰に返還を求めればよいのかその判断に困難をきたすことになるのである。また、使用開始時刻についても、その制限をしなければ、作業時間の体系はくずれるし、原告としても必要以上に管理のために労力を強いられることになるのである。しかも、これらの点については原告はその都度許可又は届出により右制限を解除する途も開いているのである。以上のとおり、原告が組合事務所貸与にあたって使用対象者の範囲及び使用開始時刻に制限を加えたことはいずれも合理的理由に基づくものであり、決して組合に対する支配介入の意図によるものでない。

3 このように、組合事務所貸借契約は未だ成立せず、また、原告がその貸与にあたり使用上の制限を付したことにつき反組合的意図はないのに、被告が組合事務所貸借契約が成立したとの前提のもとに、原告が使用上の制限を付すことが不当労働行為であるとして、原告に対し組合事務所の供与を命じたことは、不当に原告の財産権を侵害するもので、必要な救済の範囲をこえた違法なものというべきである。

第三(被告及び参加人)請求原因の認否及び本件命令の適法性

一  請求原因一の事実のうち本件命令の主文第一項にかかる部分が違法であるとの点は争いその余は認める、同二は争う。

二  手続の適法性

被告は、後に述べるように昭和五一年一月七日原告と参加人間に組合事務所貸借の合意が成立し、引続きその効力が存続するとの判断のもとに、同年五月一五日の団体交渉において原告が提示した最終案中(別紙命令書第1、2、(5))、使用対象者及び使用開始時刻を限定する部分を不当としてその撤回を命じた。原告は五月一五日の団体交渉決裂後も右最終提案を貸与条件とする態度を継続しているものと認められるから、原告主張の労組法二七条二項の期間は未だ進行していない。

三  判断の適法性

(一)  原告と参加人組合との間には、本件命令書第2、1、(3)記載のとおり、昭和五一年一月七日木工小屋を組合事務所として無償で貸与する旨の諾成的使用貸借契約が成立した。一般に貸借契約の成立は契約当事者、目的物件、使用目的等が確定されれば足り、目的物件使用に関するその他の事項は合意の成否を左右するものではない。本件においては昭和五〇年一二月一一日の団体交渉において原告から参加人組合に対し組合事務所を貸与することが右両者により合意され、次いで昭和五一年一月七日の団体交渉において組合事務所は原告会社構内にある木工小屋とすることが右両者により合意されたのであるから、遅くともこの時点において右両者間の木工小屋を組合事務所として貸与する旨の合意は成立した。

(二)  原告が主張する組合事務所の使用対象者の範囲及び使用開始時刻の制限はいずれも組合事務所貸借契約の成否を左右するものではなく、かえって原告の参加人組合に対する支配介入意図を示すものである。即ち、原告は企業施設の一部を組合事務所として貸与する場合であってもこれに対する管理権を失うものではないが、企業運営上支障が生ずる等の合理的理由がない限り組合事務所の使用につき組合の自主的運営を阻害するような制限を加えることは許されない、本件の場合いずれの制限も原告会社の業務遂行、施設の保安管理上必要なものとは認めがたく、かえって組合事務所の使用対象者を制限することは、参加人組合の合同労組たる性格を軽視することになるし、使用開始時刻を終業時以降と規制することは、組合専従者の使用、休暇をとった組合員の利用、参加人組合の合同労組たる性格等を考慮すれば相当な措置とはいえず、いずれの規制も参加人組合の自主的運営を阻害することになるのである。

(三)  そこで、被告は、本件命令書第2、1及び第3記載のように、原告と参加人組合との間には組合事務所貸借契約が成立しており、原告による組合事務所の使用制限措置は組合事務所としての機能を損い、ひいては組合活動を制約するものとしてこれを不当労働行為と認定したのであり、特に使用開始時刻については、なお双方の協議により合理的な時刻の取決めをなすべきことを前提として本件命令を発したのであるから、被告の判断に違法はない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  本件命令書の理由中「第1、認定した事実」はすべて当事者間に争いのないところである。

これによれば、参加人組合は、東京都及び千葉県を中心とする中小企業に勤務する労働者をもって組織するいわゆる合同労組であり、原告の従業員八三名中六七名が昭和五〇年一二月二日参加人組合に加入すると共に参加人組合東京特殊金属分会を結成したが、翌三日参加人組合はこの旨を原告に通知し同時に組合事務所及び掲示板設置などを内容とする「正常な労使慣行確立に関する申入れ」及び団体交渉の申入れをなし、①この申入れを受けて開催された同月一一日の団体交渉において、原告と参加人組合は「原告は参加人組合に対し昭和五一年一月末日までに組合事務所を貸与するものとし、両者はその設置場所等につき参加人組合の要望を尊重し協議するものとする」ことを合意し、②昭和五一年一月七日の団体交渉において、原告と参加人組合は、右合意を受けて、「原告会社構内にある木工小屋(二二・一平方メートル)を組合事務所とする」ことを合意し、その際、参加人組合は原告に対し木工小屋の内部を改装することを要求し、原告は次回の団体交渉までに右要求につき検討することを約し、③同月一五日の団体交渉において原告は右検討の結果として同月中に木工小屋に椅子、テーブルを搬入することを約したが、内部改装については資金難を理由に一ヶ月の猶予を希望し、④更に原告は同月三〇日分会長に宛て改装費(天井、周囲をプリント合板で張り、板の張っていない床の部分を補修する費用)を三五万円から五〇万円と見積ったうえ、原告としてその全額を支出することは不可能であるから、原告がプリント合板及びタルキ材を購入し内部の後片付けを実施する代わりに、参加人組合が右材料を用いて改装を実施することを書面により提案し、⑤結局内部改装は原告により同年三月中旬に完了したが、⑥三月一五日の団体交渉において原告が組合事務所の使用制限につき提案を行なったというのである(但し④は《証拠省略》により認定)。

以上の事実によれば、参加人組合による組合事務所設置要求は、原告の従業員が参加人組合に加入した直後から行なわれ、原告も参加人組合が合同労組であることを承知のうえで(このことは、《証拠省略》によれば、原告に対する「正常な労使関係確立に関する申入れ」が参加人組合の委員長名義でなされ、その後の団体交渉も参加人組合の委員長、副委員長、書記長が出席して行なわれていることが認められることからもうかがうことができる。)特に使用対象者等の使用方法の制限を持出すことなく、その設置場所、引渡時期につき交渉に応じて合意をなし、参加人組合の要望により組合事務所に提供することを約した木工小屋の内部改装を実施してきたものであるのに、交渉開始後三ヶ月以上を経過し右内部改装が完了した時点である⑥の段階においてはじめて組合事務所の使用制限を提案したのである。かかる一連の経過によれば、原告及び参加人組合は専ら組合事務所として提供されるべき施設及びその引渡時期を念頭におき、この二点につき合意が成立すれば組合事務所につき諾成的貸借契約が成立するものとして交渉した結果、②の段階で「原告が参加人組合に対し木工小屋を組合事務所として無償で貸与しその引渡期限を昭和五一年一月末とする」ことを合意したのであるから、これによって両者間に使用方法につき特段の制約を伴なわない形で組合事務所に関する諾成的貸借契約が成立したものと解せられるのであり、更に右契約成立を前提としたうえで、③の団体交渉、④の原告による書面提案により椅子、テーブルの搬入、内部改装につき両者が交渉した結果、原告において相当期間内に木工小屋を組合事務所として使用可能なように内部改装を実施し、これを完了したときに原告が参加人組合に組合事務所を引渡すとの合意がなされ、その結果引渡時期が変更され(このことは、原告が内部改装時期につき猶予を申出た③の団体交渉後内部改装の完了する⑥の団体交渉に至るまでの間特に参加人組合が組合事務所引渡を求めたことを認むべき証拠のないことからも推認し得るところである)、右合意に従い原告が三月中旬に内部改装を完了したことにより、原告の参加人組合に対する組合事務所引渡義務の履行期が到来したものと認めることができる。

その後、前記争いのない事実によれば、原告は、同年三月一五日の団体交渉以来組合事務所の使用対象者、使用時間、物件の搬出入につき制限をすることを提案し、右提案を盛込んだ組合事務所使用に関する協定書が作成されない限り組合事務所の使用を認めないとの態度を示したが、参加人組合の容れるところとならず、同年四月一四日の団体交渉を経て五月一五日の団体交渉において最終案として「(ア)、組合事務所の使用者は被供与者(参加人組合)の委員長、副委員長、書記長及び分会員に限定し、それ以外の者の入場については前日までに供与者(原告)に届出て許可を受けなければならない。(イ)、使用時間として、平日は午後四時三五分(終業時)から午後一〇時までと休憩時間、休日は午前七時から午後一〇時までとし、休日に使用する場合及び上記以外の時間に使用する場合は事前に届出ること、(ウ)、組合事務所内に供与物品の員数表を明示し、供与物以外の持込みについては事前に供与者の許可を受けなければならない」ことを提案したが、参加人組合は(ア)及び(イ)を削除し、(ウ)については物品の搬出のみを許可制とすべき旨を主張したが、結局両者は右三点につき合意に達しなかったのである。

ところで、既に述べたように、原告と参加人組合間に使用方法につき特段の制約を伴なわない形で組合事務所使用に関する契約が成立したといっても、その使用方法は無限定のものと解すべきではなく、参加人組合は契約自体から生ずる制約には服すべきであるし、また、原告は施設管理権者としての立場で企業施設の維持管理の必要があれば参加人組合の労働組合としての活動に対する影響を可能な限り少なくする形で組合事務所使用に関し合理的制約を付し得るのであり、その場合参加人組合もこれに服さなければならないものというべきである。

そこで五月一五日に原告がなした提案が右に述べた意味で参加人組合が服さなければならないものであるならば、格別そうでなければ、それは②により成立した組合事務所使用についての貸借契約(及びその後に引渡時期が変更された契約)変更の申込みと解せられるのであり、この点につき合意が成立しなければ、組合事務所の使用関係は当初の右契約によって律せられることになるのである。そして、原告の提案が右の意味で契約変更の申込みとなる場合において、原告が参加人組合により提案が受入れられなければ組合事務所の使用を認めないとの態度を示すことは、当初成立した契約により組合事務所引渡義務を負っているのにかかわらずその契約の変更が認められなければ引渡義務の履行を拒絶するということに帰着するのであり、それは債務不履行であると共に契約変更申込みの内容いかんによってはその不履行の継続した状態が不当労働行為を構成することになる。

二  原告は参加人組合による本件救済の申立が行為の日から一年を経過した後になされたものである旨主張する。

なるほど、原告と参加人組合間の組合事務所使用に関する交渉が原告の使用制限の提案により不調に終った昭和五〇年五月一五日の団体交渉を起点とする限りでは本件の救済申立がなされた昭和五二年七月六日までに一年以上の期間を経過している、しかし、前記一に述べたように、原告は昭和五〇年五月一五日の団体交渉以前に参加人組合に対し木工小屋を組合事務所として貸与するため引渡すべき契約上の義務を負っているのであり、それにもかかわらず、使用対象者及び使用時間の制限につき合意が成立しないことを理由に右義務を履行しないまま今日に至っているのである。そして、《証拠省略》によれば、参加人組合は原告による前記団体交渉における組合事務所引渡拒否だけを不当労働行為としてとらえているのではなく、右のように今日まで継続した義務不履行をも不当労働行為としてとらえ被告に対しその救済を求めたものと認められる。従ってこの点に関する原告の主張は理由がない。

三  次に、原告は参加人組合との間で木工小屋を組合事務所として貸与した場合の使用対象者の範囲、使用時間につき合意が成立しない以上組合事務所貸借契約は未だ成立しないし、使用者として右の点につき昭和五〇年五月一五日の団体交渉において提案したような組合事務所の使用上の制限を付しても不当労働行為とはならない旨主張する。

しかし、本件における経過をみる限り、使用方法につき特段の制限の付せられていない組合事務所貸借契約が先ず成立し、原告がその引渡義務を負うに至った後に原告らが使用制限の提案をしたものであることは既に述べたとおりであるから契約が成立していないとの原告の主張は採用しがたく、残された問題は後になされた原告の主張する使用方法の制限の提案が、施設管理権者として合理的なものと認め得るか、或はそれが契約的変更の申入れであって労働組合への運営に介入するものとして、引渡義務不履行が不当労働行為を構成するか否かである。

(一)  原告の主張する使用対象者制限とは、現実に組合事務所を使用し得る者を合同労組である参加人組合の委員長、副委員長、書記長及び分会員即ち原告の従業員である参加人組合員に限定し、それ以外の者の使用については(原告は提案に当たりこれを「入場について」と表現している)前日までに原告に届出て許可を得なければならないというのであるが、右は組合事務所の使用方法につき新たな制約を加えるもので企業施設管理の面から合理性を有するものとは認めがたく、使用対象者を限定しないで成立した当初の契約変更の申込みであると解すべきである。これによると、従業員でない組合員で組合事務所の使用が認められるのは参加人組合のいわゆる三役に限られ、他の組合員はすべて許可制となるが、このように当初使用対象者を限定することなく組合事務所貸与を約しながら後日に至り組合員の使用にまで規制を及ぼすことは、中小企業の従業員がその労働条件向上のため企業の枠をこえていわば横断的協力関係を基盤として結成した合同労組の運営に対する介入であると認めるのが相当である。また、組合員以外の第三者も規制対象とされるが合同労組ならずとも労働組合が組合事務所に第三者を招きその活動につき助言等を受けることはその自主的運営の範囲にあると認められるから、この点からみても原告の右のような態度は参加人組合の自主的運営につき介入するに至ったものといわざるを得ない。

使用対象者制限の必要性につき原告の主張するところによれば、事故発生の場合の責任者、契約終了の際の返還請求の相手方の把握がなし得ないというにある。しかし、事故発生についていえば現実の行為者が何人であっても、労働組合は借主である以上善良な管理者として借用物を保管すべき義務を負うものと解せられるから、使用者は労働組合に対し契約上の債務不履行を理由に損害賠償請求をなし得るのである。また、契約終了の際の返還(明渡)請求は借主である労働組合に対してなせばよいし、たまたま第三者が使用していたとしてもその多くは労働組合の占有補助者か一時的に出入りする者であって独立の占有者とは認められないであろうから、このような意味で第三者が組合事務所を使用したとしても明渡請求の関係では少なくとも法的には痛痒を感じないはずである。

もっとも、第三者が独立した形で占有を取得すれば原告主張のように明渡を求める関係でその者を特定する必要が生じる。しかし、第三者が組合事務所につき占有を取得するのは、労働組合が第三者に転貸するか、借用権を譲渡するか、第三者を引入れて共同占有者とするかであるが、かようなことはいかに組合事務所貸借契約であっても貸主たる使用者に無断でなし得るところではなく、(民法五九四条二項参照)そのような場合借主たる労働組合は反対の特約がない限り原則として使用者の承諾を求める必要がある。

即ち、第三者による組合事務所の独立占有取得の問題は、右に述べた組合運営への介入となる使用対象者制限とは異なり労働組合が使用者に対し契約上の義務として承諾を求めるべき関係にあるのであって、ことあらためて使用者が持出すまでもなく労働組合として原則的になし得ないことなのである。

原告の主張する使用対象者制限が第三者の独立占有取得まで含むとすれば、それは参加人組合に対し契約上当然のことを要求したにとどまり、参加人組合もこれを拒み得る立場にないわけであるが、本件口頭弁論の全趣旨によれば、就中原告が一定の者以外に対し「入場について」許可を要するとの態度を示しているところによれば、原告の意図は、契約上当然なことを要求したというよりも、三役及び従業員たる組合員以外の者の組合事務所使用を禁ずることにその主眼があるものと推断して差支えない。なお、原告は制限された使用対象者以外の者でも許可により使用可能である旨主張するが、許可基準が明らかにされておらない以上許可が恣意的になされないとの保障はないわけであるから、許可制による使用可能な場合があり得るといっても、そのことから直ちに原告の使用対象者制限をもって合理性あるものと認めることはできない。

以上述べたところによれば、原告が契約上その義務があるにもかかわらず自己の主張する組合事務所の使用対象者制限を参加人組合が受け入れなければ組合事務所を引渡さないとの態度を示し、この態度をその後も維持し続けていることは労働組合の運営に介入する不当労働行為であると認めざるを得ない。

(二)  次に組合事務所の使用時間制限であるが、この点に関してはそれが企業内施設の利用である以上たとえ契約においてその点が全く明示されておらず一見随時使用可能の如くみられる場合でも、使用者は施設管理の面から合理的な制限はなし得るものと解すべきである。本件命令の主文第一項によれば、被告が原告に対し組合事務所貸与を命ずるに当たり、昭和五〇年五月一五日の団体交渉における原告の使用時間制限に関する提案中撤回を命じたのは、平日の使用開始時刻を午後四時三五分(終業時)とした部分のみであり、その余の部分、即ち、平日の休憩時間中の利用、平日の使用終了時刻を午後一〇時、休日の使用を届出制による午前七時から午後一〇時までとした部分については、同日の物品搬出入に関する提案(ウ)と共に、当事者間に合意が成立せず、原告の提案にとどまっていたのに、被告がその撤回を命じないまま原告に対し組合事務所貸与を命じたことは、原告の右提案をもって使用方法についての合理的制限であると認めたためと解される。

原告は、平日の組合事務所の使用開始時刻を終業時後とし、それ以前の使用につき届出制としたことの理由として、作業時間の体系の維持、管理労力の消費の防止をあげている。しかし、終業時以前の時間帯のうち特に就業時間中の組合事務所の使用についてみれば、従業員は就業時間中組合活動を原則としてなし得ないのであるから、原告が労使交渉等により就業時間中の組合活動についての取扱いを確立さえしておけば、従業員による就業時間中の無制限な組合事務所の使用という事態はおこり得ず、これによる作業時間の体系の乱れということは考えられない。

また、参加人組合が専従者をおけばその者は就業時間中であっても当然組合事務所を使用することになろうし、時間内組合活動を認められた者も同様就業時間中に使用することになるであろうが、いずれも労働組合の自主的な運営に関することがらで原告の容喙すべきものでなく、それによって原告が施設管理のため特に多大な労力をさかなければならないという理由も見出しがたい。

もっともこの点については原告は許可制ではなく届出制を提案しており、その意味では規制は弱いものであるが、平日の就業時間においてその都度届出を受けなければ原告として、管理上不都合であるという特段の事情を認めることはできない。そして、組合事務所を貸与する契約が成立した以上は使用者として企業の運営、施設管理上支障がない限りその使用は労働組合の自主運営に委ねるべきであり、既にみたように平日の終業時以前の時間帯のうち、少なくとも、勤務時間中の使用につき届出を受けなければ原告として支障を生ずるという事情は存しないのであるから、平日の終業時以前の組合事務所使用につき時間帯を問わず一律に事前届出を要求しこの要求が容れられなければ、組合事務所の引渡を拒絶するとの態度を示し、この態度をその後も維持し続けていることは労働組合の運営に介入する不当労働行為であると認めざるを得ない(なお、付言するに原告が本件命令により撤回を命ぜられたのは「平日の使用開始時刻を終業時以降とする部分」であるから、これを全面的に撤回すれば平日の使用開始時刻は無限定となってしまうが、撤回後あらためて原告が施設管理上合理的な使用開始時刻を設定することまでをも本件命令が禁じている趣旨とは解せられない。このことは、既に述べたように、被告が原告の使用時間制限の提案中、平日の使用開始時刻以外の部分については合意成立をみていないにもかかわらず、これを施設管理上合理的なものと認めて撤回を命じていないことからもうかがうことができる。)。

四  このように、原告が組合事務所貸借契約が成立したにもかかわらず使用対象者及び使用開始時刻制限の提案を参加人組合が受入れないことを理由に組合事務所引渡を拒み続けることが不当労働行為と認められる以上、被告が本件命令により原告に対し右提案を撤回して組合事務所の貸与を命じたことは相当であるといわなければならない。

よって、原告の本訴請求を理由なきものとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松野嘉貞)

<以下省略>

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